黒猫センターは、
日々いろんな“変な荷物”が届く場所だ。
だが、この日の空気は違っていた。
ざらり──と、何かが擦れる音がした。
黒猫センターの空気が、いつもより重かった。
「なんやこれ……誰が持ち込んだんや」
出入りしている黒猫達に、ざわりと戦慄が走る。
あまりにも異質な
"だらりとした汚そうな物"が受付テーブルに
ぽつん、と置かれている。
「さっき……誰かが運ばれて行ったよな」
「受付嬢が手にしたら卒倒しんだよ」
「そりゃ、酷いな……」
「若年猫の吐き戻しで、
トイレは大変なことになっとるで」
久しぶりのお祭り騒ぎになっている。
大概の物品をやりとりしている黒猫センターでも、
少しだけ斜めに……
扱いにくい物品だったらしい。たぶん……
出入り黒猫A:
「これ、どかしてや!
私の荷物を置かれへんやん」
出入り黒猫B:
「鼻落ちるって、早く引っ込めてや」
皆が不平を言うのだが、
持ち込んだものが誰なのかは言わない。
それは、
なが~ンから持ち込まれた荷物と知っているから……
いろいろと、ネコ達の事情があるらしい。
その荷物がここへ置かれる少し前──。
*
黒猫は、センター前で仁王立ちしていた。
グルグルにラップされた
"だらりとした汚そうな物"を
しっかり咥えているのだが……
白目をむいている。
口には小さい黒い物が蠢いており、
ハアーハアーと激しい吐息だけが聞こえている。
その吐息にまぎれて、どこか甘い匂いが漏れた。
"美味しそうな匂い"と振り向いた者がいた。
アリクイ族の荷受けトラックの運転手だ。
運転手が見つめた先には、
黒猫が立ちすくんでいた。
虫の生態に詳しいアリクイ族は緊急性を察知し、
黒猫センターへ報告。
咥えていたものは受付へ回され、黒猫は……
ベテラン黒猫(顔をそむけながら):
「凄いな、虫と匂いが大変だ」
荷物を遠手で持ちながら受付へ
持ち込んでもよい荷物なのか透視検査を通す。
そこへ受付嬢が休憩から戻ってきた。
受付:
「なに?臭いわね」
ベテラン黒猫:
「たぶん、なが~ンさんとこの黒猫やと思うねん。
けったいな荷物咥えて気失っとったわ。」
「荷物を取り上げて、透視検査中やねん。」
受付:
「なが~ンさんとこのなら大丈夫でしょ?」
ベテラン黒猫:
「いや、ちよっと……
これ、画面を見てみ」
受付:
「虫・・・・・・」
ベテラン黒猫:
「おい。どうした」
黒猫若い衆が呼ばれて受付嬢が奥へ運ばれていく。
ベテラン黒猫:
「このていどの蠢きで倒れてどうする。
まだまだ若いのう」
仁王立ちの黒猫は……
若い衆達で麻袋に詰められる。
なが~ンさんの物は
麻袋に入れることになっているらしい。たぶん…
アリクイが様子見にやってきた。
アリクイ運転手:
「集配センターでの荷受けが終わったので、
様子を見に来ました。」
「これ、だいぶん虫が抜けてますよ」
「私は黒アリクイではないので、
この虫はあつかえませんが、
ラップを渡してくれたら補強しますよ」
渡されたラップで丁寧に包みなおしながら…
「咥えていた黒猫さんはどうなりました?
"字"に取り憑かれて、
沢山の毛を抜かれてましたよ」
ベテラン黒猫:
「毛を抜かれていた?」
アリクイ運転手:
「あれっ?知りません?」
「この手の虫は紡く習性が強くて……
繊維を見つけるとすぐ紡ぎ始めます。
布を近づけると……ほら、こうして。」
当たり前のように、上着の袖を当てがってみせた。
"サッ"と虫をはたいて淡々と話が続く
「それより、黒猫の虫を逃がさないでください。
布のようなもので覆えば、
繊維を紡いて生き残ろうと留まるので。」
しゃべりながらも丁寧なラップを完了
アリクイ運転手:
「密封したら窒息するので穴を開けるのですが…
こちらで処理される方は、
舐めるのですが?
ほじくるのですか?
手法がわかれば、対処しやすいように穴を開けますよ」
ベテラン黒猫とアリクイの会話は続く。
その結果、このまま受付に放置。
センター長の判断にまかせることになった。
センター長は朝から、
トラ配送センターへ出向いてまだ戻らない。
誰も対処しないまま、
黒猫センターの空気だけが
じわじわと重くなっていく。
そして──
ようやくセンター長が戻ってきた。
*
黒猫センターの奥、古い本棚の影から、
センター長がゆっくり姿を現した。
センター長は、
受付テーブルの上に置かれた
“だらりとした汚そうな物”を一瞥しただけで、
眉間に深いしわを寄せた。
センター長:
「まず、各自の安全確認するで。
この荷物の最終管理者は……君で間違いないな」
ベテラン黒猫:
「はい」
センター長:
「帰ってきたら、
"けが人がいる"、
"卒倒した者がいる"と聞いたのだが……」
ベテラン黒猫:
「はい。
受付嬢が荷物を見つめて倒れました。
泡を吹いていたので頭を打っている可能性を考え、
救急車で病院送りにしています。」
「次に……、
なが~ん本店さんの黒猫が白目むいて気絶——」
センター長(驚きの顔):
「おい!
今、なが~ンさんところのって言うたな。
お客さんに迷惑かけとるんか?」
ベテラン黒猫:
「おそらく大丈夫です。たぶん……。
白目むいて立ったまま気絶していたんですよ。
虫がたかってまして……
よそへ虫がうつらないように麻袋にいれて
裏に放置しています。
社員にはうつっていません。」
センター長(あきれ顔):
「アホ。
社員も大事やけど、それよりお客さんが優先や。
救急隊になんで引き渡してないんや」
ベテラン黒猫:
「救急隊は見てくれたのですが……
病院で虫が広がるとダメなので連れていけない。
それどころか、
虫に関する専門職のところへ
連れて行けと言われまして……」
センター長:
「何を言うとるんや!
この荷物は虫の専門家が触っとるやんけ。
アリクイ族の毛が縫い付けて封印されてる。
アリクイ救急隊が同行してたんとちゃうんか?」
ベテラン黒猫:
「そのアリクイさんは、お客さんでして……」
センター長:
「あん?
お客さんに助けてもらっているってことか?」
ベテラン黒猫:
「いえいえ。一般のお客さんではなくて……
出入り業者という意味での、お客さんでして……」
センター長:
「それ、一緒じゃ。
他人様に迷惑かけとる。
それで、この有様と……」
センター長とベテラン黒猫は
現状の確認を長々としている。
あの黒猫のことを忘れたまま……
*
センター長:
「黒猫救急隊に確認したら、
受付嬢は病院で意識が戻った。
アリクイ救急の手配確認をしたら、
山3つ先から来るので……
今から4時間後と言いよる」
ベテラン黒猫:
「アリクイ救急は、荷物のために呼ぶのですか?」
センター長:
「荷物……
違う、違う……
黒猫や。そや。黒猫や。
私としたことが黒猫を忘れとった。
麻袋へ入れたって聞いてたから安心しとったわ」
ベテラン黒猫:
「麻袋でよかったのですか?」
センター長:
「君が麻袋を指示したんとちゃうんか?」
ベテラン黒猫:
「いいえ。私が見たときには
すでに死体袋となってました。」
センター長:
「でも、結果オーライやな。
もちろん廃棄するような古い袋に入れているよな」
ベテラン黒猫:
「総務が
"なが~ンさんとこはコレだから"と
持ってきたもので……」
センター長とベテラン黒猫:
「…………」
センター長:
「済んでしまったことは、まあええ。
黒猫を確認しよう。黒猫のところへ案内しろ」
*
死体袋のような麻袋を、
沈黙の目で見つめる二人。
ベテラン黒猫:
「袋、開けましょうか?」
センター長:
「待て。まだ観察しろ。
もし黒猫が昇天していたら……
袋から体液がにじみ出ているはすや」
(間)
「……まだ死んでへん」
ベテラン黒猫:
「死んでへん?……えっ……??」
センター長:
「虫が湧いていたんだよな。
麻袋に入れてから、虫は出てきてないな。」
ベテラン黒猫:
「はい。虫の閉じ込めに成功してまして、
受付嬢以外の社員は大丈夫です。」
センター長:
「アホか。お前。
社員よりお客様の安全第一やろ
さっきも言うたやろ」
ベテラン黒猫:
「そう言われても……
黒猫が野垂れ死ぬことはまま——」
センター長:
「だから、お前はアホかというとるんじゃ。
黒猫約款……いや、それより黒猫条例を思い出せ。
荷物を運ぶ黒猫は、私ら仲介黒猫と違う。
"〇▼※?□"の使命で走っとるんや」
ベテラン黒猫:
「えっ?、"マルクロサンカク…"って」
センター長(おでこに怒りマーク):
「あん?
てめえ、まさか未熟者とちゃうやろな。
ええ歳こいて、"〇▼※?□" が聞こえへんのか?」
ベテラン黒猫:
「はい。"マルクロサンカク…"って聞こえてますが…」
センター長(大きなため息):
「君のことは後で確認するわ。
センター作業員を一人呼んで来い。
作業員ならだれでもええ。
手ぇ空いてるやつを大至急や」
今まで黒猫を放置していたくせに……
今頃になって黒猫の処遇で慌てるのであった。
*
センター作業員(顔を洗っているのかナデナデしている):
「こんなとこに呼び出して……どうされました?」
無言で麻袋を指さすセンター長。
死体袋に視線が吸い寄せられるセンター作業員。
センター作業員(驚いている):
「なんで、ここに死体袋があるんすか……?
死臭が出始めてますよ」
センター長:
「やはりそうか?
でも体液の滲みだしは見えへんやろ」
センター作業員:
「本当だ。ということは……、
死後数日たって体液が抜けたものを、
死体袋に入れて
誰かがここに放置したってことですか?」
センター長:
「君ならそう見立てるやろ。
この麻袋には、
さっきまで動いていた黒猫が入っているんや」
センター作業員:
「動いていた黒猫を……??
死体袋に……???」
センター長:
「それはいいとして、
まだ生きているのか?
これからどうするのか?
君と方針を決めたいんや」
センター作業員:
「私には匂いから……
すでにお亡くなりに……
なっているように見えますが……。
まだ生きているという前提なんですね。」
センター長:
「そうだ」
センター作業員:
「では、呼吸をしてるかの確認しましょう。
次に、体温があるかの確認です。
簡単ですよ。
袋の中に手を突っ込んで
鼻と腹部を触るだけです。
私がすぐ作業しますよ」
センター長:
「待て待て。君にうつったら困るやろ。
君は我が社の重要戦力なんや」
センター作業員:
「うつるって……。
やばい伝染病なんですか?
それなら、
すぐに保健所を手配したほうがいいですよ」
センター長:
「こやつは"虫"にたかられて白目むいとるんや」
センター作業員:
「"虫"はどんなのですか?
白い線虫?字虫?タグ虫?泣き虫?
……それとも腹の虫?
わかっていたら教えてください」
センター長:
「私は"虫"を見てへん。
話を聞いたら……
荷物から虫が這い出てたかられとる。
体毛で巣をつくろうとしてたとかで、
他の猫の毛にうつったらいかんと、
この状態にされとる」
センター作業員:
「それなら"紡ぎ虫"か"字虫"ですね。
それで死体袋……
じゃなかった、麻袋なんですね」
腰の作業カバンをゴソゴソして、
薄くて長いゴム手袋を取り出す。
センター作業員:
「私の体毛が触れないように
ゴム手して触れば大丈夫です。
ゴム手越しだと、鼻息の確認は難しいですが、
体温と脈なら触診できますよ」
センター長:
「そうか。それで頼む」
死体袋じゃなかった。麻袋に手を突っ込む。
空を見上げながら、あちこちを探っている。
センター作業員:
「私のカバンから作業帳を出して、
私がしゃべることをメモしてください」
無言でセンター作業員の腰袋をまさぐり、
何冊かの帳面を取り出すセンター長。
センター長:
「どの帳面に書き込むんだ」
センター作業員(空からセンター長へ目線が移る):
「重要事項なので、
ピンク色の帳面にしか書き込めないはずです。
ほら、センター長の左手……
ピンク帳面を握っているでしょ」
「今の会話で途切れたので、
また最初から探りますね」
再び、空の一点を見上げながら麻袋の中をまさぐりはじめた。
センター作業員:
「私のしゃべることを、
そのまま書き落としてください。
略語やセンター長の心の声を
混ぜないでください。
漢字ではなく、ひらがな、
もしくはカタカナで書いてください。
誤字脱字を避けるために、ゆっくりと話します」
「では、
これから私が唱える言霊を書き綴ってください。
準備ができたら、
“唱えなさい”と指示してください」
センター長(緊張の顔で):
「……唱えなさい」
*** センター作業員の祝詞が始まる ***
♪♪♪————
この者の魂は未熟であり、
世の摂理の枠からズレておる。
枠から外れていることにより、
目の輝きが失われ、硬直という形で
世の接点を外している。
体温と呼吸は安定しておるが~~。
沢山の小さい魂~~。
世に認知されたいと形を変えようと努めている。
愛おしく可愛い魂に満ちておる。
小さい魂が大きい魂に助けを求め、
魂が分かれるのを拒んでいる。
たくさんの魂に触れた者は、
それぞれの魂の叫びを受け止め、
魂が生き残る道標を用意しなければならない。
————♪♪♪
*** センター作業員の祝詞が終わる ***
センター作業員:
「大丈夫、生きてますよ。
私なりに深層心理まで探りを入れたのですが……
どんなの出ました?
いつもは助手が丁寧にまとめてくれるんですよ」
センター作業員:
「それと……
黒猫の首輪に
手紙と思われるものが括りつけられてました。
私が触れた限りでは、
それは私には読み解けない代物だと思います。
手紙をしたためた方の
封印が施されているはずです。
必要な方へ届くようになっているので、
センター長が管理してください」
手紙をセンター長が受け取ると、金色の字が浮き上がった。
センター作業員:
「あれっ……
センター長が手にしたら、
私にも字が見えるようになった」
「センター長宛ての手紙ですね。
字が見えるってことは……
私にも読めということでしょうか?」
「その手紙はいいとして、
先ほど私が読み上げた内容を
先に見せてもらえますか?」
センター長(意味深な顔):
「そのまま書いたのだけど……
こんな感じで作業をするのか?」
センター作業員:
「センター長は管理畑ですから、
私達の心理作業は知らなくて当然ですよ。
メモを見せてください」
二人してうなづきながらメモの確認をする。
センター作業員:
「センター長。
私と手を取り合ってアイコンタクトしましょう」
見つめ合う二人の時間がしばらく続く
(間)
手を離してすぐに……
センター作業員:
「次の対処は伝わったと思います。
専門職手配を間違えると大変なことになるので、
まずは該当書籍を読んで、
どの専門職に連絡するか決めてください」
*
受付の本棚を漁りはじめるセンター長。
多数の書籍から二冊の本に目がとまるのだが……
なぜか左手は、別のところへ伸びて行く。
本棚の隙間から、
古びた薄い冊子を引き抜く。
表紙には、かすれた文字で
<< 寄生虫編 紡ぎ虫・字虫の対処(第64版)>>
と書かれている。
センター長はページをめくりながら、
受付嬢が倒れた理由を静かに理解していく。
黒猫の白目も……これのことだろうな。
センター長:
「……ああ、これは本当にアカンやつや。
これをまとめているのは……。
やはり、この手の事案はローサルか……」
書籍の裏には
著者「ローバジェット・ナノ・サルベージ研究所」
と記されている。
すぐに電話を取り出し、
ローサルへ状況を説明する。
センター長:
「……ああ、ローサルか。
虫が紡いどる。
黒猫が一匹、白目むいて倒れた。
……来れるか?」
電話の向こうで、
ローサルが短く息を呑む音がした。
ローサル研究員(電話越し):
「宿主にされたのは1匹だけか?
宿主はどうなっとる……」
数回の受け答えをして。
ローサル研究員(電話越し):
「今、研究所は手が離せん。
代わりに、ロボ“LowSalAI”を向かわせる。
あいつの指示には絶対に従ってくれ。
ちょっとアレだけど……
虫の対処は世界が認めている。
繰り返すが……
絶対に“LowSalAI”の指示に従ってくれ、必ず。」
センター長:
「了解や。ロボの指示に従うわ。」
本店大家(ネコ爺)貼り紙棚
こんなパッケージを見たいというリクエスト。
なが~ン達の会話でわからん言葉があったときは、コメントどうぞって書いた連絡箱へメモ入れたらええ。
本店大家が時々確認して、人属の記録パッケージを並べろと意見するぞ。
ただし、ネコ族のことはネコプライバシーがあるので質問不可。
店主より: この棚の管理は面倒だから適当にするよ。
[只今、空き棚]
女神からの独り言
でも、参加して"なが~ン堂"を露出しないと
誰も来てくれないのさ……
だから、アクセスアップ祈願札を貼るけど
札を触った人は、ブログ紹介ページへ飛ばされるのよ。
必ず、戻ってきてね
